オーガニックビジョン
私たちの暮らす時代は、自然と共に息づく農業が主体であったわずか70年前から、著しい変貌を遂げました。便利で効率的な現代社会は、多大なエネルギーを消費しつつも、化学肥料や農薬の活用により、農業者の人口減少の影響を最小限に国民の食料を支えてきました。しかし、化学肥料の価格高騰とその入手困難さ、さらに農薬に起因する環境への潜在的な影響は、私たちに新 たな挑戦を突きつけています。
異常気象の頻発、未曾有の病害虫の出現、奥山から里へそして町へ獣害の増加は、自然との共生の限界を示唆しています。これらの現状を踏まえ、天理市は、都市部と中間地域(里山エリア)をほぼ半々有する、まるで日本の縮図のような地域であることを強みとし、古来からの自然と共に生きる知恵と、現代科学を融合させることで、持続可能な循環型地域の構築を目指す柱としてオーガニックビレッジに真摯に取り組んでまいります。
ビジョン1 耕作放棄地という足元の資源に気付く
天理市福住地区では、まずは耕作放棄茶園の再活用を通じて、オーガニックビレッジ構想を推進します。かつて87ヘクタールにも及んだ茶畑が現在は1ヘクタール未満と大幅に減少していますが、数十年の年月の中で農薬・化学肥料が流亡し分解浄化されたこれらの土地が持つ微生物豊かな土壌を活かし、オーガニック茶の生産に着手します。特に注目すべきは、数メートルに育ったお茶の木そのものを活用する「三年晩茶」の生産です。このお茶の生産は下記のような利点を生み出します。
・成長した茶の木を活かすため開始初年度より製品化し販売をスタートできます。
・冬に収穫するため農閑期の仕事を生み出します。
・日本茶、大和茶の中心である緑茶とは全く違うジャンルの超ローカフェイン茶の為バッティングせずに新たな需要を作り出します。
・薪火焙煎で作るため大幅に二酸化炭素の排出を削減できます。
・傷みにくい晩茶の性質や、軽作業も多く生み出しましますのでフレキシブルな時間で様々な方々が生産に関われます。
二つ目のステップとしてオーガニックのハードルを下げる意味も込め、比較的オーガニックで栽培しやすい作物選び(ハーブや根菜類等)、完熟堆肥の提供、仮に虫害が出た場合も加工用(主に三年晩茶へのブレンド)として全量買い取りするという工夫を行うことで、地域の方々がオーガニックに取り組んでみようという流れを作ります。そこで小さく成功体験を積んでいただいたのち、より本格的な生産へのビジョンを描いていただくようにサポートして参ります。
ビジョン2 完熟堆肥生産で天理市全体の農業の品質と持続可能性を高める
天理市オーガニックビレッジは堆肥化技術の活用を進め参ります。このアプローチでは、都市部から出る生ごみや剪定枝と中山間地域の未利用資源である落ち葉、刈り草などを有効活用し高品質な堆肥に変換することを目指します。これらの資源は現在、ほとんど活用されずに廃棄されていますが、適切な堆肥化プロセスを通じて、病原菌や雑草の種を排除し、悪臭の発生を抑えながら、農業に再利用可能な完熟堆肥を生産します。
この取り組みは、オーガニック栽培だけでなく、慣行栽培においても堆肥の利用を促進することで、化学肥料依存の減少とコスト削減、土壌と野菜の品質向上に寄与します。さらに天理市として取り組むことで、地域で生産される農産物の価値向上と地域の魅力増加を目指します。このアプローチは、オーガニックの概念に限定されず、良質で健康的な農産物生産に焦点を当て、地域資源の有効活用を図りながら持続可能な農業推進への重要な一歩になって参ります。
ビジョン3 都市部と里山地域の好循環を再構築
天理市オーガニックビレッジ構想の核となる第三のアプローチは、都市部と中山間地域(里山エリア)の循環モデルの構築です。日本の中山間地域は耕作放棄地の増大、加速する少子高齢化、人口減少と産業衰退による地域持続性の難しさといった難題を抱えています。しかし、多くの中山間地域は貴重な水源地であり、生物多様の宝庫でもあり多様な日本文化の源泉のエリアとも言え、都市部の経済と暮らしの発展には欠かすことのできない地域といえます。
・未利用資源の活用と堆肥…都市部と中山間地域では生ずる堆肥の資源が異なります。その為双方が連携することでより多様性に富んだ高品質な堆肥生産を行うことが出来ます。
・風土の特性を活かす…標高差最大500メートルが生み出す季節の訪れの差異が栽培期間を長め、多様な圃場の理地位条件が適地適作の可能性も広げてくれます。上手く連携することで、より長期間にわたり魅力的な旬の作物を生産することが出来ます。
・森林活用…中山間地域に大きく広がる森林の有効活用を行うことで、カーボンニュートラルや生物多様性の回復を進めることに繋がります。作物の受粉に大きく貢献している花蜂等にも優しい環境を作り出すことで多様性を保持し、特定の病害虫だけが爆発的に繁殖することを回避致します。オーガニック圃場のみではなく、生態系サービスを生み出してくれているエリア環境そのものをオーガニックな環境へと移行させていくことが重要であると考えます。
オーガニックビレッジビジョン達成に向けて
天理市オーガニックビレッジビジョンでは、オーガニック農業の生産、加工、流通、そして普及を核として進めてまいります。この目標をより高い次元で達成するためには、多岐にわたる省庁の政策との連携、および市民を含む幅広い層の理解と支援が不可欠です。オーガニック農業は、持続可能な食糧生産の最も基本的な形態であり、これを通じた街づくりは、社会全体に対する貢献となります。以下、本ビジョンを実現するための具体的なアプローチを提示いたします。
省庁間連携の強化: オーガニック農業の推進には、農業、環境、経済、教育等、関連する各省庁との緊密な協力関係の構築が求められます。これにより、一貫した政策実施と資源の有効活用が可能となります。
市民参加の促進: オーガニックビレッジビジョンの理解を深め、支持を広げるために、市民への啓蒙活動を強化します。具体的には、オーガニック農業に関するセミナーや体験プログラムの開催、学校教育への組み込みを推進します。
情報発信の充実: オーガニックビレッジビジョンに関する取り組みや成果を、ウェブサイトやSNS、地元メディアを通じて積極的に発信します。これにより、実施者だけでなく、理解者や応援者の輪を市の内外に広げます。
地域連携の推進: 地元農家、事業者、教育機関との連携を深め、オーガニックビレッジ構想の下での新たなビジネスモデルや教育プログラムの開発を促します。
これらのアプローチを通じて、天理市はオーガニック農業を中核に据えた持続可能な街づくりを推進し、その成功を国内外に示すことを目指します。
天理市オーガニックビレッジ事業の目指す未来

オーガニック野菜&ハーブプロジェクト報告

堆肥プロジェクト報告

福住茶復活プロジェクト報告
